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焦点:イラン制空権掌握のイスラエル、地下核施設破壊には米軍事力が必要

2025年06月18日(水)11時27分

 6月17日、イスラエルはイラン領空を支配し、ほぼ障害無しに同国への爆撃を拡大している。写真は16日、イスラエルの攻撃う受けて炎上するテヘランのイラン国営放送局(2025年 ロイター/Majid Asgaripour/WANA)

Maayan Lubell Lili Bayer Ece Toksabay Suleiman Al-Khalidi

[エルサレム 17日 ロイター] - イスラエルはイラン領空を支配し、ほぼ障害無しに同国への爆撃を拡大している。ただ専門家によると、米国が攻撃に参加しない限り、地中深くに建設された核施設に致命的な打撃を与えるのは困難だとみられる。

イランはイスラエルの都市に対するサイル攻撃で応戦した。しかしイスラエルは戦闘機が中東上空を縦横無尽に飛び回り、イランの核施設やミサイル貯蔵庫、科学者、将軍らを攻撃。軍事・諜報面での優位性を見せつけた。

複数のイスラエル当局者は16日、イランの制空権を掌握したと宣言した。イスラエル軍はこの状況を、パレスチナ自治区ガザやなど、イランと結託する他の敵との紛争地域での制空権掌握に例えた。

イスラエルのネタニヤフ首相は同日、イランの制空権掌握は「ゲームチェンジャー」だと発言。ハネグビ国家安全保障顧問は、数十基の防空砲台を破壊したことで、パイロットはテヘラン上空でさらに「数え切れないほどの標的」を攻撃できるようになったと述べた。

しかし米軍が攻撃に参加し、地下深くの施設を破壊する能力を持つ爆弾を投下しない限り、イスラエルはイランの核開発計画を壊滅させられないと公に認める有識者もいる。

英キングス・カレッジ・ロンドンのセキュリティ研究学部上級講師、アンドレアス・クリーグ氏は、イスラエルは「作戦上および戦術上かなりの成功を収めた」としながらも「それを戦略上の成功へとつなげるには、航空戦力以上のものが必要になる」と付け加えた。

クリーグ氏によると、トランプ米大統領が攻撃参加を決定した場合、米国の最も強力な地下貫通弾(バンカーバスター)でさえイランの最も地中深い施設を貫通するのは困難かもしれず、特殊部隊のような地上部隊が必要になる可能性がある。

ただクリーグ氏は「イスラエルは現在、好きなように行動できる状況にあり、レバノンで行ったのと同じような行動が可能だ」と述べた。

<レバノン攻撃に類似>

イスラエルのイラン攻撃は、昨年レバノンで親イラン民兵組織ヒズボラに対して行った壊滅的な攻撃を彷彿とさせる。イスラエルは最初の数日間で、指導者ナスララ師を含む最高司令官らを全滅させた。

米高官2人は15日、ロイターに対し、イランの最高指導者ハメネイ師を殺害するイスラエルの計画をトランプ氏が最近拒否したと語った。

ネタニヤフ氏は16日、そうすれば紛争は終結すると述べて、ハメネイ氏殺害の可能性を排除しなかった。

イスラエル軍は同日、テヘランの特定の地域に避難警告を発し、「イラン政権の軍事インフラ」を標的とする計画だとXに投稿した。これも2024年のレバノン攻撃を想起させる。

中東地域の情報筋は、イスラエルがテヘランに「非常に驚くべき」諜報網を構築したと説明した。

イスラエルの軍事的優位は長年指摘されてきたものの、特にイランの最高位の将軍らに対する攻撃の速度、規模、効果は多くの専門家を驚かせたと、トルコの防衛アナリスト、バリン・カヤオグル氏は語った。イラン軍は「居眠りをしていた」ようなものだという。

ただ同氏はイスラエルの課題にも言及し、弾薬の補給と戦闘機の保守が必要なため、空軍が現在の作戦ペースを維持するのは困難になるかもしれないと述べた。

<米国からの武器輸送>

イスラエルのメディアは4月、米国から異例の規模の爆弾が到着したと報じた。公共放送Kanが4月17日伝えたところでは、バンカーバスターを含む数百弾が配送された。

イスラエル高官らは、イランの核計画をイスラエル軍だけで完全に無力化することは不可能だと認め、攻撃の目標は完全破壊ではないと強調している。

イスラエル安全保障当局の元高官はロイターに対し、イランの最も地中深い核施設であるイラン中部フォルドゥのウラン濃縮施設に損害を与えるには米軍の支援が必要だが、イスラエルは米軍の攻撃参加を当てにしているわけではないと述べた。

イスラエルはこれまで、フォルドゥは標的としておらず、ナタンズとイスファハンの施設のみを狙っていると表明している。

元高官は、いずれにせよイスラエルが既にイランの核計画に十分有意な損害を与えたと述べた。

紛争終了後、イランにウラン濃縮能力が残っていたとしても、それを懸念すべき行動につなげられる人材や施設が無くなったのであれば重大な成果だ、と元高官は付け加えた。

ロイター
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